技術の世界は日進月歩です。エンジニアには、新しい技術を学ぶと同時に、新しい技術を創り出していくことが求められています。松江高専では、卒業生ひとりひとりが新たな技術に挑戦し、我々の暮らしを向上させる学んで 創れる エンジニアとして活躍することを目標として、カリキュラムを整備し、指導体制を構築しています。
電気情報工学科の多くの卒業生は、製造業、情報通信、エネルギー関連業に従事しています(詳しくは「卒業生の進路」をご覧ください)。ですから、電気情報系学んで 創れる エンジニアは、
○新たな技術開発に活躍できる
○信頼できる製品製造の中核となる
○生活の基礎となるエネルギーや情報通信ネットワークの施工、保守、管理業務に信頼できる
○安全で安心な社会を支える
人物であって欲しいと考えます。
このために必要となるエンジニアとしての基礎力は何か、を考えて電気情報工学科の教育目的と卒業の認定に関する方針を作成しました。
(詳しくはこちらのページの一番下をご覧ください)
電気情報工学科では、教育目標を達成するために以下の指導を行っています(専門科目については次のページをご覧ください)。
学習指導
3年生までの低学年においては、基礎力をしっかりと身につけることが大切です。講義科目の指導はもとより、実験レポートの作成指導、実習で時間を要する学生に対しての放課後指導も行っています。さらに低学力者に対しては放課後あるいは休業期間中に補習追試を実施しています。
レポート指導
エンジニアにとって文書作成は主要な業務となります。実験・実習ではテーマ毎にレポート作成を指導します。その実験が何を目的とし、目的を達成するためにどのような測定を行ったか(実験方法)、実験の結果、結果から考えられること(考察)を記します。就職活動においてもエントリーシートなどの文書を作成しなければなりません。そのための基礎トレーニングともなります。5年生では、卒業研究のための論文作成科目も開講しています。
キャリア指導
1~3年生では、松江高専キャリア・ワーキンググループが中心となって全学科共通の指導を実施しています。先輩やOBによる講演会、学年研修などを通じてキャリアを意識して将来を考えることを指導しています。
4年生では学科が主体となり、学期ごとにOB講演を開催しています。教員から(耳にたこができるほど言われていますから)と違って先輩からのアドバイスは、素直に受け入れる学生が多いようです。夏休みにはインターンシップによる職業体験もあります。
コンテスト活動
クラブ活動は、学生時代の体験として重要です。就職活動においても、自分をアピールできる経験となります。
そして高専には、他の高校にはないコンテストが多数あります。電気工学科はコンテスト活動を強力に推進しています。
NHKで有名なロボットコンテスト(ロボコン)
松江高専は1988年第1回大会からロボコンに出場し、2013年第26回大会まで、全国大会にのべ18台のロボットを出場させました。そして、2004年には”それいけアルゴン”が全国優勝を果たしました。この全国大会に出場したロボット18台のうち16台が本科(旧 電気工学科)チームです。
近年のロボコンロボットにはマイコンが搭載され、ネットワークとつながる、あるいは自律動作する、などの高い技術が要求されています。その動作を実現するためには機械(メカ)だけでなく、センサをコンピュータに入力する、アクチュエータをコントロールする、操縦者(コントローラ)と無線通信する、などの高度なエレクトロニクス&コンピュータの知識と技術が必要となっています。
つまり、ロボコンロボットを設計し、製作することは、極めて高度なエンジニアとしてのトレーニングとなります。
電気情報工学科ではNHKロボコンの他にもロボカップサッカーなど、高度な技術を求められるロボットコンテスト活動をサポートしています。実験室内に開発システムを備え、あるいは工作機器を設置し、経験豊富なスタッフが指導にあたる支援を続けています。
準備段階
4年生では、卒業後の進路について、情報を集め、よく考えることを指導します。1年間を通じて5年生の活動状況などを伝え、進路決定への意識を高めます。
4学年末の春休み(3月始め)に学科長、アドバイザ、保護者、学生による面談を実施し、進学か就職かの意志を確認します。就職であれば、希望する業種や職種、勤務地などの希望を、進学であれば志望校(本命と滑止め)を確認します。この時点で希望がはっきりしていないと意志決定ができなくなり、その後の活動に影響します。4年生のうちに意識をはっきりとさせておくことが重要です。
例年ありますが「受験に失敗したら就職したい」との二股はお奨めできません。受験失敗が決まる頃には就職活動は終盤になっています。採用活動を継続している企業は限られ、いわゆる人気企業は、まず残っていません。また、学生にも“この会社で全力を尽くすのだ”との意志が固まっていなければ、内定は得られるものではありません。
就職活動
例年、2月頃より求人票が送られてきます。原則として経団連が定めた就職活動時期の“解禁”から企業見学、説明会などへの参加が始まり、希望する企業への応募(履歴書やエントリーシートの提出)となります。応募には学科推薦(高専からの就活の場合は学校推薦でなく学科推薦が慣例となっています)と自由応募の2種類があります。学科推薦では、たとえば1次、2次、3次と3回ある面接の1次をパスさせて頂けるとか、書類審査なしで面接して頂けるとか、エントリーしなくても面接して頂けるなどの優遇をして頂ける企業が多くあります。ただしもちろん、採否は推薦の有無ではなく、本人によって決まります。きちんとコミュニケーションができる人物であること、リーダシップを持った人物であること、専門能力が高いこと等が重要となります。また、TOEICスコアは400以上であれば大きな武器となります。
応募に際しては履歴書の書き方、エントリーシートの書き方指導、面接指導などを繰り返します。しかし、これらの“身だしなみ”の指導は、社会人としての基本ではありますが、エントリーシートや面接で何を主張できるかは、学生自身がどれだけの努力を積み重ねてきたかに依ります。5年生になるまでにいろいろな体験を積むように指導しています。
例年、7月までにほとんどの学生が内定を得ます。が、応募した最初の企業からすぐ内定を得られるわけではありません。2社、3社と応募を繰り返すこともあります。このとき、何が足りなかったのかを分析し、次に臨むことが重要となります。自己分析がきちんとできることが大切です。
受験
進学への挑戦は、5月の専攻科推薦入試から始まります。専攻科推薦は、専攻科が第一志望であって4年生の成績が優れていること、人物に問題がないことが条件となります。大学編入学試験も大学によっては5月からありますが、多くは7月、8月です。推薦と学力の2種類があります。
5年生になってから受験勉強を始めるのでは間に合いません。専攻科及びほとんどの大学では、英語、数学、電気の専門科目(電磁気、電気回路、電子回路、電力工学、制御工学)が受験科目となります。出題範囲は、ほぼ、4年生で学習した内容となります。したがって、4年生の成績が重要となります。4年生の定期試験で良い点が取れなかった学生が、(試験範囲を明示されない)入試において得点を得ることは極めて困難です。また推薦入試の場合、推薦基準及び合否の判定において成績が大きなポイントとなります。
合格を得るためには、4年生の成績(優、良、可)において平均“良”以上であることが合格の目安となります。東大・京大などの難関校受験では、ほぼ全“優”であることが求められます。クラスでの順位は関係なく、成績そのものが重要です。進学を希望する者は、4年生の始め、遅くとも夏休みの始めからは計画を立てて勉強をすることが必須です。
TOEICまたはTOEFLのスコアを英語の試験の代わりとする大学が多くなっています。TOEICは、多くの企業が社内での昇進の基準のひとつとするなど、英語能力の物差しとして広く使われています。松江高専では学内でTOEIC試験を実施するなど、TOEICの指導にも力を入れています。
残念なこと
就職や進学が決まって慢心してしまう学生があります。卒業に向かって努力することの指導を繰り返しますが、何年かに1人、内定あるいは合格が決まっているのに卒業できなくなってしまう学生がいます。高専は「内定があれば卒業させる」学校ではありません。単位の認定は、公正に行います。卒業まで、きちんと努力することを指導します。
高専カリキュラムの特徴は、
○専門知識を学ぶ授業(講義)
○専門知識を活用できるようにする実験
○専門知識を応用できるようにする実習
が組み合わされているところにあります。
講義科目
講義科目では、専門知識の獲得を図ります。交通規則を知らなければ自動車の運転ができないように、エンジニア業務に従事するためにも多くの専門知識が必用です。電気回路図やプログラムを読めるようになることが必用ですが、その中の構成要素についても理解していなければなりません。
電気情報工学科では回路の中を電気信号がどう伝わるかを「電気回路」で、空間の中を電波がどう伝わるかを「電気磁気学」で、2~3年生を通じて基礎から段階的に学びます。そして4年生では、数学を使ってこれらの現象を記述することを学びます。4・5年生では電気工学の専門科目を重点的に学びます。
エネルギー技術として、
○発電所での発電から、家庭までの送電などの電力エネルギーシステムを学ぶ「発変電工学・送配電工学」
○電力エネルギーを効率的に、そして正確にモータの回転エネルギーに変換することを学ぶ「電力変換工学」
エレクトロニクス技術として、
○トランジスタやICなどの半導体の原理や仕組みを学ぶ「電子工学」
○半導体を使って電気信号を増幅する技術を学ぶ「電子回路」
コンピュータ技術として、
○コンピュータのハードウエアを学ぶ「コンピュータ工学」
○コンピュータを思うように動かすための言語と言語を使う技術を学ぶ「プログラミング」
○温度や物体の動きを正しくコントロールする技術を学ぶ「制御工学」
などの専門科目を学びます。
もちろんこれらの講義科目では、単に知識を詰め込むのではなく、その知識を使えるものとするための考え方や応用の方法を含めてトレーニングします。“知る”だけではなく、“理解する”を目標としています。
実験科目
講義科目だけでは“机上の空論”ではありませんが、“机上の理論”です。実際にその理論を確かめ、応用するためには、回路を接続し、計測器を扱い、データを測定し、測定結果を考察する実験科目が必用です。またエンジニアの実務においては、機器が正しく動作しているかを確かめ、問題が生じていれば原因を究明し、対策を講じることが必要となります。
このような実務において必要となるのが“実験技術”です。どこに計測器をつなげば何がわかるかを回路図から読み取り、推定される原因が生じていればどのような計測値の変化が現れるかを想定し、原因を特定するためには“実験技術”が必用です。また、新しい製品をテストするときにも、新しい技術を試みるときにも“実験技術”は不可欠です。“実験技術”をエンジニアが持たなければ、単なる解説者でしかありません。
実習科目
たとえばコンピュータのプログラミングは、文法やコマンドを覚えるだけでは役に立ちません。プログラムを書けなければ、装置を動かし、データを転送し、コントロールすることはできません。英単語を覚えるだけでは英語を話すことができないのと同じです。電気情報工学科では、装置を動かすためにもっともよく使われているC言語を2~4年生でトレーニングし、マイクロコントローラに組み込む演習を行うなど“使える”プログラミングを学びます。
また、電気のエンジニアには、電子回路基板を設計製作できる技術も求められます。そこで1年生から電子回路組み立て演習を行います。もちろん量産に使用されるプリント基板を用いても実習しますが、単なる組立工を養成するのではありません。開発に従事するために必用な技術として、(量産が始まる前の開発段階での試作に用いられる)自在基板を用いた実習も行います。また、多様な電子回路を知るために2~3年生ではブレッドボードを用いた試作を、4年生ではコンピュータによるプリント基板デザイン(CAD)をトレーニングし、自動加工機を用いて基板を試作する統合的な演習を行います。
卒業研究
「学んだことが本当にエンジニアとしての基礎力となっているかどうか」。これは、何かを計ったり、作ったりすることでわかります。
たとえば、「ある材料がどれだけの電圧に耐えられるかを測りたい」とします。その材料が使われる状況を調べて実験条件を設定し、必要な測定機器を考えて接続し、繰り返し実験して、精度のあるデータを得て、報告書としてまとめなければなりません。「○○の測定器を△△に接続しなさい」とお膳立てされた低学年での実験は総合力を養成するための基礎ですが、マニュアルに沿っての実験ではなく、状況そのものを自分自身で設定し、どのようなデータが必要なのかを考え、得られた値を評価しなければなりません。
あるいは、「バッテリーを効率よく充電する装置を作る」としましょう。装置の構成を考え、必要な電子回路を設計し、コントロールプログラムを製作し、動作を確かめなければなりません。設計図が売っているわけではありません。プログラムがネットに転がっているわけではありません。自分自身で何が重要かを考え、設計し、製作しなければなりません。
このように、自分自身で測定や製作に取り組み、エンジニアとしての実力をつける場が卒業研究です。講義で学んだ知識を応用し、実験で学んだ技術と実習で身につけた技能を総合して取り組むトレーニングが卒業研究です。卒業研究では学生一人一人がそれぞれのテーマを選んで取り組みます。電気情報工学科では卒業研究の指導にも力を入れています。
(個別の授業科目についてはトップメニューの「授業・実験実習」をご覧下さい)
卒業生の進路
2019年度の卒業生の進路は就職52.9 %,進学47.1%でした。年により変動はありますが,2015-2019年度の平均割合が示すように約6割が就職,約4割が進学となっています。
就職では,県内への就職が27.8%、県外が72.2%です。2015-2019年度の平均では県内就職が全体の約1/4となっています。
大阪大学
岡山大学
豊橋技術科学大学 2名
長岡技術科学大学 3名
国立音楽院 1名
松江高専専攻科 電子情報システム工学 8名